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新撰組が新選組になる日 後日談「いつかの夢物語」

清河によって引き起こされた事件が幕を下ろし、屯所にいつもの日常が戻ってきた。
疑いの晴れた平助は暫くの間謹慎する事になり、その間に多くの者が彼を見舞った。永倉や原田は言うに及ばず、井上や山崎――皆に声を掛けられるたび、平助は仲間の大切さを改めて実感したという。
そして、謹慎の明けた今日。
中庭では、激しく打ち合う平助の悲鳴が響いていた。
「ぐはっ」
「まだまだっ!」
永倉、原田、斎藤の三人は、容赦なく平助を木刀で攻め立てる。一方的とも言える惨い惨状に、縁側で稽古を見守っていた千鶴は青ざめていた。
「へ、平助君……」
「あーあ。一方的に殴られてるね」
沖田は千鶴の隣で呑気に欠伸をしながら、事の成り行きを見守っていた。
「あ、あの、沖田さん止めなくていいんですか?」
「仕方ないだろ。平助が自分からやるって言ったんだ」
平助曰く、近藤を斬った事や皆に心配をかけた事の罪滅ぼし――らしい。殴られる事が何の罪滅ぼしになるのかは解らないが、平助の気が済むのならと、永倉たちは快く了承した。
――ちなみに、沖田が参加していないのは本人が辞退したからではなく、「総司なら本当に平助を殺しかねない」と皆が大反対したからである。
「これじゃ、謹慎明け早々寝込むことになりそうだね。千鶴ちゃん、こんなつまらないもの見るのはやめて、二人で何処かにいかない?」
「え?」
沖田は無防備な千鶴の手を引くと、自分の胸の中に閉じ込める。
不意打ちでぎゅっと抱きしめられて、千鶴は顔を真っ赤にしながら慌てて抵抗しようとする。
すると、それを見た平助は――
「ああああっ!千鶴に何してやがっ」
「隙ありっ!」
稽古の最中に余所見をした平助を、永倉の容赦のない一撃が見舞った。


平助が皆から一方的に殴られていた頃、密かに出かけた土方と近藤は、いつもの密会場所で佐々木と談笑していた。
「近藤さんの話は本当に面白い。勉強になります」
「ははは。佐々木さんこそ、気さくに接してくれるから身構えずに話せて助かる」
「…………」
笑顔で話す二人の傍らでは、土方が不機嫌そうな表情を浮かべていた。先程から酒を飲み、楽しんでいるのは二人だけだ。
先日の事件が尾を引いているのか、土方には世間話を楽しむだけの余裕はなかった。
「土方さんも一杯どうですか?」
「……………」
遠慮なく酒を進めてくる佐々木に、土方は渋い顔をする。
酒は苦手だが、何度断っても進めてくる佐々木を納得させるには、無理して飲むしかないらしい。
「あの後、藤堂君はどうですか」
「謹慎はさせたが、今日から復帰してる」
「そうですか、それは良かった」
微笑む佐々木を見て、土方は何かを思考するように目を細めた。
騒動の後、平助と二人きりになって改めて話し合った時の事を思い出す。
「土方さん、ごめん……俺が振り回した所為で、迷惑かけて」
「いや、俺も……悪かった」
土方は素直に謝罪した。佐々木の事を誤解していたのは事実だ。嘘をついた平助も悪いが、早とちりした自分も悪い。
土方の謝罪を聞いた平助は驚いた後、泣き笑いの表情を浮かべた。
「土方さん、俺……新撰組が好きなんだ。ここに居ても良いかな?」
「平助……」
土方は暫くの間、答える事が出来なかった。
また今回のように、お互いの意見が分かれてしまう時が来るのかもしれない。それでも出来るのなら――平助に、ここに居て欲しいと思っていた。
平助が何故、自分の思いを素直に打ち明けてくれなかったか。その理由は、まだ解らない。恐らく過去の出来事に帰来しているのだろうが、平助自身が打ち明けてくれるまで、問い詰めるような事はしたくな。だが、次に意見が分かれた時は――出来ればその事を隠さずに、素直に打ち明けて欲しいと思う。
「一つ、約束しろ」
「……?」
「言えない事は言わなくても良い。無理に隠そうとしなくていいから、その代り……もう嘘はつくな」
「土方さん……」
思わぬ言葉に、平助は目を見開く。土方なりの精いっぱいの温情を感じた平助は、自分の言葉がどれだけ相手を傷つけていたのか気付き、改めて己を恥じた。
「誓うよ。二度と嘘はつかない。もし何かがきっかけになって土方さん達と進む道が分かれたとしても、今度は――素直に打ち明けるよ」
その言葉が後に己の運命を変える事になるとも知らず、平助は土方の瞳をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
――先日の平助とのやりとりを脳裏に浮かべながら、土方は佐々木が注いでくれた盃に視線を向ける。
酒は嫌いだ。だが、平助が潔く罰を受けたように――つまらない嫉妬心から佐々木の事を疑った自分も、罰を受けるべきなのかもしれない。
(一気飲みはした事がないんだが……)
土方は暫く盃を睨んだ後、意を決してそれを飲み干した。
土方が下戸なのを知っている近藤は、暴挙とも言える行為に驚き、青ざめる。
「だ、大丈夫か……トシ?」
土方は口の中に広がる苦い味に吐き気を覚えた後、眉を顰めながら呟いた。

「まずい」


















 薄暗い室内で、佐々木は頭を垂れながら京都で出会った男たちの話をしていた。
彼の目の前には会津藩主――松平容保が座っている。
容保は黙って、佐々木の言葉に耳を傾けていた。
「しかし強いと言っても、所詮は農民上がりだろう?」
怪訝な表情を浮かべる容保に、佐々木は堂々とした面持ちで告げた。
「農民上がりだからこそ、その背中を見た人々が共感を受けるかもしれません。彼らは京に新しい風を吹かせ、職務を超えて人々から選ばれる人間に成長するかもしれません」
「新しい風を吹かせ、やがては人々から選ばれる人間になる……か」
容保は佐々木の言葉に頷くと、口元に笑みを浮かべた。
確かに、面白いかもしれない。
「良いかもしれないな」
「え」
「一度彼らに会ってみたい、と思ったのだよ。その者たちが目を掛けるだけの人間に値すると解れば、彼らに役割を与えてやっても良い」
「容保様……」
佐々木はどこか安堵するような笑みを浮かべた。本当に、この人は器が大きい。彼ならば、近藤達がどういう人間なのかちゃんと見抜いてくれるに違いない。
「ありがとうございます」
ずっと気にかかっていた近藤達の処遇を容保に託す事が出来て安堵した佐々木は、ほっと胸を撫で下ろした。


――その後、実際に試合で近藤らの実力を目の当たりにした容保は、彼らに京都の治安維持を命じる事になる。
近藤達の組織に見合った名前が必要だと考えた容保は、佐々木との会話を思い出し、祈りを込めるように口にした。







「彼らの名は、新選組としよう」












05/17. 14:03 [ 無分類 ] . . TOP ▲
        
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