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久しぶりに


なんとなく薄桜鬼の話を読み返したくなってサイトを除いてみました。数年も経つと完全に読者気分です。これ、自分が書いたんだよなあ…と驚き(苦笑
当時は頭の中に浮かんだ光景をすぐ書き起こしてました。忘れないうちにとにかく書かないと!とメモも取らずひたすらキーを打つ打つ。だから毎日更新なんて出来たんですよね。反応貰えるのが嬉しかったのも大きかったです。皆さんからの感想やお言葉がなければ、すぐにやめてたと思います。
でも、そうした感想を目当てに書くと批判の声をいただいた時に心が折れてしまいそうだから。だから自分の趣味だけで書いてるんだーっと、突っ走ってる所もあったような気がします。
昔の自分を振り返ると、今更ですが実感します。やっぱり、独りよがりじゃここまで書けなかった。
読んで下さった皆様には、ただただ感謝の気持ちでいっぱいです。

ありがとうございました


ちなみに史実本沢山読んでたので、沢山の量を書けたのはネタに困らなかったからです。面白い風習とか見つけるたび、薄桜鬼キャラで表現するのが楽しくて仕方なかった。また書きたい気持ちもありますが、止まらなくなりそうなのでやめておきます(笑
当時は本当にリアルが死んでました。友達と遊びに行くのも断って書いてましたから。逆にそこまで出来なければ、逆手侍と鬼の鞘は完結しなかったと思ってます。どの話も気に入ってますが、他作品パロも含め、今でもこの作品だけは自分の中で別格です。今でもよく覚えてるのですが、これだけプロットなしで書いてました。最後の以蔵と斎藤の一騎打ちの内容を小さいメモ用紙に書いて。
よし、頑張って斎藤さんを落とすぞ!と気合いだけで書き始めました。毎日展開を考えながら書いてたから、キャラが頭の中で勝手に動いていったんですね。よく綺麗に纏まったなあと自分でも驚いてます。今でも不思議な気持ちです。
だから最後、以蔵に対する思いが強くなってしまって。オフ本のカバー下に以蔵の短編書き下ろしてる辺り、気持ちが出てしまってますね(笑
斎藤と以蔵はこの後ちょっぴり再会していて、少し話をしてたりするんですが…そこまでは書いてなかったんですね。今更気づきました。まあ蛇足でもあるので、ネタだけでもいつかブログに書けたらいいな。

拍手を見てまだアクセスして下さる方がいらっしゃった事に驚き、申し訳ない気持ちになりました。
特に「新撰組が新選組になる日」については、本で完結したことに満足してサイトにUPするのをサボっていて……今確認したら本発売したことOFFに書いてなかったんですね。ダメじゃないか!
自分もサイトの続きが気になってデータ引っ張りだしちゃったので、申しわけないからブログに先にUPしておきます。サイトの更新なんですが、PC変更したせいで設定に時間が(^^;

このサイトは有料サーバーなので、いつか消すとき用にサイトの文章を本にしていました。そろそろ契約更新やめようかなーと思いつつ、偶に来てくれる人もまだいるようなので。今年も何だかんだと更新してる気がします。
バックアップとしてピクシブにデータ移してもいいけど、数が膨大で時間かかりそう。うーん、ちょっと考えておこう。

とりあえずこんな感じで。
今でも薄桜鬼大好きで、部屋にポスター飾ってます。PCの傍にフィギュアありますよ~
また楽しく書けたらいいな。たぶん今度はのろのろペースですが(笑



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05/17. 14:05 [ 無分類 ] . . TOP ▲
新撰組が新選組になる日 後日談「いつかの夢物語」

清河によって引き起こされた事件が幕を下ろし、屯所にいつもの日常が戻ってきた。
疑いの晴れた平助は暫くの間謹慎する事になり、その間に多くの者が彼を見舞った。永倉や原田は言うに及ばず、井上や山崎――皆に声を掛けられるたび、平助は仲間の大切さを改めて実感したという。
そして、謹慎の明けた今日。
中庭では、激しく打ち合う平助の悲鳴が響いていた。
「ぐはっ」
「まだまだっ!」
永倉、原田、斎藤の三人は、容赦なく平助を木刀で攻め立てる。一方的とも言える惨い惨状に、縁側で稽古を見守っていた千鶴は青ざめていた。
「へ、平助君……」
「あーあ。一方的に殴られてるね」
沖田は千鶴の隣で呑気に欠伸をしながら、事の成り行きを見守っていた。
「あ、あの、沖田さん止めなくていいんですか?」
「仕方ないだろ。平助が自分からやるって言ったんだ」
平助曰く、近藤を斬った事や皆に心配をかけた事の罪滅ぼし――らしい。殴られる事が何の罪滅ぼしになるのかは解らないが、平助の気が済むのならと、永倉たちは快く了承した。
――ちなみに、沖田が参加していないのは本人が辞退したからではなく、「総司なら本当に平助を殺しかねない」と皆が大反対したからである。
「これじゃ、謹慎明け早々寝込むことになりそうだね。千鶴ちゃん、こんなつまらないもの見るのはやめて、二人で何処かにいかない?」
「え?」
沖田は無防備な千鶴の手を引くと、自分の胸の中に閉じ込める。
不意打ちでぎゅっと抱きしめられて、千鶴は顔を真っ赤にしながら慌てて抵抗しようとする。
すると、それを見た平助は――
「ああああっ!千鶴に何してやがっ」
「隙ありっ!」
稽古の最中に余所見をした平助を、永倉の容赦のない一撃が見舞った。


平助が皆から一方的に殴られていた頃、密かに出かけた土方と近藤は、いつもの密会場所で佐々木と談笑していた。
「近藤さんの話は本当に面白い。勉強になります」
「ははは。佐々木さんこそ、気さくに接してくれるから身構えずに話せて助かる」
「…………」
笑顔で話す二人の傍らでは、土方が不機嫌そうな表情を浮かべていた。先程から酒を飲み、楽しんでいるのは二人だけだ。
先日の事件が尾を引いているのか、土方には世間話を楽しむだけの余裕はなかった。
「土方さんも一杯どうですか?」
「……………」
遠慮なく酒を進めてくる佐々木に、土方は渋い顔をする。
酒は苦手だが、何度断っても進めてくる佐々木を納得させるには、無理して飲むしかないらしい。
「あの後、藤堂君はどうですか」
「謹慎はさせたが、今日から復帰してる」
「そうですか、それは良かった」
微笑む佐々木を見て、土方は何かを思考するように目を細めた。
騒動の後、平助と二人きりになって改めて話し合った時の事を思い出す。
「土方さん、ごめん……俺が振り回した所為で、迷惑かけて」
「いや、俺も……悪かった」
土方は素直に謝罪した。佐々木の事を誤解していたのは事実だ。嘘をついた平助も悪いが、早とちりした自分も悪い。
土方の謝罪を聞いた平助は驚いた後、泣き笑いの表情を浮かべた。
「土方さん、俺……新撰組が好きなんだ。ここに居ても良いかな?」
「平助……」
土方は暫くの間、答える事が出来なかった。
また今回のように、お互いの意見が分かれてしまう時が来るのかもしれない。それでも出来るのなら――平助に、ここに居て欲しいと思っていた。
平助が何故、自分の思いを素直に打ち明けてくれなかったか。その理由は、まだ解らない。恐らく過去の出来事に帰来しているのだろうが、平助自身が打ち明けてくれるまで、問い詰めるような事はしたくな。だが、次に意見が分かれた時は――出来ればその事を隠さずに、素直に打ち明けて欲しいと思う。
「一つ、約束しろ」
「……?」
「言えない事は言わなくても良い。無理に隠そうとしなくていいから、その代り……もう嘘はつくな」
「土方さん……」
思わぬ言葉に、平助は目を見開く。土方なりの精いっぱいの温情を感じた平助は、自分の言葉がどれだけ相手を傷つけていたのか気付き、改めて己を恥じた。
「誓うよ。二度と嘘はつかない。もし何かがきっかけになって土方さん達と進む道が分かれたとしても、今度は――素直に打ち明けるよ」
その言葉が後に己の運命を変える事になるとも知らず、平助は土方の瞳をまっすぐに見つめ、力強く頷いた。
――先日の平助とのやりとりを脳裏に浮かべながら、土方は佐々木が注いでくれた盃に視線を向ける。
酒は嫌いだ。だが、平助が潔く罰を受けたように――つまらない嫉妬心から佐々木の事を疑った自分も、罰を受けるべきなのかもしれない。
(一気飲みはした事がないんだが……)
土方は暫く盃を睨んだ後、意を決してそれを飲み干した。
土方が下戸なのを知っている近藤は、暴挙とも言える行為に驚き、青ざめる。
「だ、大丈夫か……トシ?」
土方は口の中に広がる苦い味に吐き気を覚えた後、眉を顰めながら呟いた。

「まずい」


















 薄暗い室内で、佐々木は頭を垂れながら京都で出会った男たちの話をしていた。
彼の目の前には会津藩主――松平容保が座っている。
容保は黙って、佐々木の言葉に耳を傾けていた。
「しかし強いと言っても、所詮は農民上がりだろう?」
怪訝な表情を浮かべる容保に、佐々木は堂々とした面持ちで告げた。
「農民上がりだからこそ、その背中を見た人々が共感を受けるかもしれません。彼らは京に新しい風を吹かせ、職務を超えて人々から選ばれる人間に成長するかもしれません」
「新しい風を吹かせ、やがては人々から選ばれる人間になる……か」
容保は佐々木の言葉に頷くと、口元に笑みを浮かべた。
確かに、面白いかもしれない。
「良いかもしれないな」
「え」
「一度彼らに会ってみたい、と思ったのだよ。その者たちが目を掛けるだけの人間に値すると解れば、彼らに役割を与えてやっても良い」
「容保様……」
佐々木はどこか安堵するような笑みを浮かべた。本当に、この人は器が大きい。彼ならば、近藤達がどういう人間なのかちゃんと見抜いてくれるに違いない。
「ありがとうございます」
ずっと気にかかっていた近藤達の処遇を容保に託す事が出来て安堵した佐々木は、ほっと胸を撫で下ろした。


――その後、実際に試合で近藤らの実力を目の当たりにした容保は、彼らに京都の治安維持を命じる事になる。
近藤達の組織に見合った名前が必要だと考えた容保は、佐々木との会話を思い出し、祈りを込めるように口にした。







「彼らの名は、新選組としよう」












05/17. 14:03 [ 無分類 ] . . TOP ▲
新撰組が新選組になる日 サイトの続き




一人を殺せば十人が助かるなら、一人を殺す。
何の見返りも無い真実よりも、確実な利益を得られる偽りを選ぶ。
それが、土方歳三にとって「正しい」と思う最良の選択だ。今更覆す事など、出来るはずもないのに。
「副長……」
斎藤と土方は、日が沈み始めた京の町を歩いていた。
黙って歩く土方の背中を見つめながら、斎藤は何かを言いかけて――口を閉じる。今の土方にかけられる言葉など、皆無だ。彼の心に届く言葉をかけられる男など、一人しかいないのだろう。
――近藤勇。
先の永倉たちとの諍いを諌めたのも、近藤の言葉だった。平助に斬られた傷は軽傷だったらしく、包帯をして現れた彼はその場にいた一同全員を一喝したのだ。
「ここで俺たちが言い争えば、誰かが救われるのか?何かが得られるのか?――違うだろう」
近藤の言葉に、誰もが悲痛な面持ちで俯いた。皆解っているのだ。現状を打破する手段がないから、足並みをそろえる事が出来ないのを。平助に何があったのかを理解し、彼を助けた上で清河を討ち、京都守護職の人間の理解を得る――なんて、途方もない願いだろう。
土方が組織を守るために取った最善の策、それが平助を殺す事だった。
平助が悪いか、悪くないか。そんな事はどうでも良いのだ。今の新撰組を守るには、平助の死体を守護職の人間に見せるしかない。そう考えた土方は非情な判断を下し、清河暗殺よりも平助の始末を優先しようとしたのだ。
――元より、批判は覚悟の上だった。
斎藤や山崎など私情を挟まずに任務に専念出来る者だけに指示を出して、秘密裏に平助を殺す事も考えたが――永倉たちに事情を説明したのは、せめてもの手向けのつもりだった。
「近藤さん、部屋で寝ててくれって言っただろ」
「そうはいかない。俺はこの組の局長だ。こんな時にトシ一人にすべて任せて寝ているなんて、出来る筈がないだろう」
土方は眉根を寄せながら苦言するが、近藤は苦笑をしつつも皆の前に向き直ると、堂々とした声で告げた。
「皆で今回の事件の黒幕である、清河只三郎を討とう。すべてはそれからだ」
「近藤さん…!」
「既に山崎君に、清河の所在を調べるために動いてもらっている。あれだけの騒ぎを起こしたんだ、すぐに見つかるだろう」
心強い近藤の言葉に原田や永倉ばかりか、斎藤まで表情を緩める。みな、それだけ平助の事を心配していたのだ。
そして――土方は。
「近藤さん。新撰組を守るためにも、今は情をかけてる場合じゃねえだろ」
ばつの悪そうな顔で俯く土方を見て、近藤はゆっくりと頭を振った。
土方の采配は一見、情け容赦無いように見える。だが、彼は自分の役割に徹しているだけだ。決して本心から平助の死を望んでいる訳では無いだろう。
永倉達と衝突してまで自分の意思を押し通そうとしたのは、それだけ土方の肩に圧し掛かっている重圧が本人にとって重いものだったからではないだろうか。恐らく――近藤が考えて居るよりもずっと、土方は苦しんでいる。
彼がそんな風にして悩むようになったのは、駆け引きや采配を苦手とする自分の所為も多分にあるのだろう。近藤は申し訳なさそうに目尻を下げると、控えめに笑う。
「俺の肩にかかる重圧と、トシの肩にかかる重圧は――意味が違うだろう?いつもつらい役目ばかり背負わせて、悪いな」
「何の話だ。俺はあんたにそんな顔をさせるために、副長になったわけじゃねえ」
「……そうか」
ゆっくりと頷きながら、やはり土方にだけ憎まれ役を押し付けるにはいかないと、近藤は気を引き締める。
「平助に斬られたのは俺だ。その俺が許すと言ってるんだ。すまないが、トシ……今回は俺の好きなようにやらせてもらえないか?」
「近藤さん……」
強い眼差しの中に近藤の決意を垣間見て、土方はぐっと押し黙る。流石の彼も、皆の前で局長である近藤の言葉を跳ね除けるのは難しい。二人きりの時の話し合いや雑談ならともかく、人前で意見の対立を見せつける訳にはいかなかった。
仕方ない、と内心ため息をつくと、渋々ではあるが近藤の提案を受け入れる事にする。
「あんたがそこまで言うなら、もう俺から言う事は何も無い。清河の居所が解ったら、皆でそこを叩けばいい」
「トシ……」
「俺は少し気になる事が出来た。これから守護職の人間に会いに行ってくる。その間の指揮はあんたに任せるぜ、近藤さん」
「ああ、解った。……ありがとう」
穏やかな表情で頷く近藤を見て、土方は「何の事だ」と強がった。
そうして屯所を出た土方の後を斎藤が追い――今に至る。
「近藤さんのお人好しにも困ったもんだ。まあ、確かに……平助の事は、焦り過ぎた自覚はある。悪かったな、斎藤」
「いえ」
斎藤は控えめに頷く。土方の判断に意を唱えず、黙って従おうとしたのは自分だ。迷う気持ちは斎藤自身にもあったのに、素直にそれを口に出さず、最後まで黙秘しようとした。土方ばかりが悪い訳では無いだろう。
「副長、守護職の人間に会いに行くというのは……総司の残した言葉が原因ですか」
「……ああ。こんな状況で会いに行くべきじゃないのは解ってるが、どうしても胸の遣えがとれなくてな。総司がああ言うからには、佐々木さんがしている事にはそれなりの意味があるんだろう」
沖田の言葉を鵜呑みにする訳では無いが、佐々木が何思って行動しているのか――それを知らなければ、自分は先に進めない気がした。
「斎藤、お前まで俺の個人的な事情に付き合う必要はない。今からでも屯所に戻って…」
「いえ、同行します。守護職の人間がどう出てくるか解らない以上、副長一人では危険かと」
「そうか……悪いな」
土方は苦笑しながら、歩みを進める。
清河と平助の件があったからだろうか。いつもよりも騒がしい町中を、二人は静かに歩く。こんな状況では仕方ないだろうが、何か気を紛らわすような言葉でも掛けるべきだろうか。そう考えた斎藤が口を開こうとすると――
「斎藤、変な質問をしても良いか?」
「はい?」
「俺と近藤さんが何歳か解るか?」
「……は?」
あまりにも突然で意外な言葉に、斎藤は珍しく素っ頓狂な声を上げる。質問の意図が解らない。
「副長、それはどういう……?」
「いいから、お前の見解を教えてくれ」
「………」
斎藤は眉根を寄せた後、暫く悩み――正直な考えを口にした。
「歳は解りませんが、局長と副長は同じ歳か……局長の方が年上に見えます」
「やっぱりそう思うか」
土方は昔を懐かしむように目を細めた後、違うのだと言って首を振った。
「俺の方が一つ……正確には半年くらいだが、長生きしてるな」
「副長の方が年上という事ですか?」
「ああ。よく勘違いされる」
近藤と土方の為人を知っている者は皆、穏やかな雰囲気のある近藤の方が年上だと思うらしい。土方自身も、自分の方が年下のようだと感じる時がある。
「あの人――佐々木さんは、俺と近藤さんの事を見事に言い当てた。俺の方が若く見られることが多いんだがな」
こう言っては失礼かもしれないが、見た目の所為もあって土方の方が圧倒的に年下に見られていた。だから本当に驚いたのだ。「土方さんは、歳に関係なく人を敬えるんですね」と、冗談っぽく言われた時は。
「あの時から、俺はあの人を無意識に警戒してたのかもしれねえな……。総司に言われて、個人的な感情であの人を毛嫌いしてたんだって実感するようになった」
「歳を当てたられたことが、そんなに気になったのですか?」
「そうじゃねえ。ただ――」
佐々木は物事の本質を捉えるのが上手い。傍目に見れば土方が近藤を支えているように見える立ち位置だが、彼は会話の中で冗談っぽく、「近藤さんは土方さんに甘えているようだ」と言っていた。
甘えられているつもりはなかったが、彼の感覚ではどう見ても土方が年上に見えるらしい。
土方が副長で、近藤が局長であるにも関わらず――だ。
「あの人の洞察眼は凄い。それでいて他人を見るときは欲目が無いから、素直な見方をする。本質を捉えるのが上手いんだろう。……俺には、真似できないな」
自分にできない事を易々とやってのける人間に抱くのは、好意か嫉妬。土方は、どちらと言えば後者だった。
「もしも佐々木さんが総司の言うとおり全くの白だった場合、俺が今までしてきた事は何だったんだって思ってな」
「副長……」
斎藤は思わず息を呑む。土方が佐々木を警戒していたのは、新選組の事を考えての事だ。それ自体は決して悪い事ではないが、もしも土方の見解が外れていた場合――今まで佐々木を疑っていた事を後悔するのだろうか。
(そうか、副長が複雑な気持ちになるのも無理は無いな)
斎藤はようやく、土方の足取りが重い理由を察した。自らの行いが間違いであった時、自分の足元が崩れそうな予感を覚えているのだろう。
確かに、真実が解ればそれで終わり――と言う訳にはいかない。
(俺が副長の立場だったとしても、やはり佐々木さんを疑っただろう。)
斎藤はため息をつく。
土方は副長として正しい行いをしていると思うが、それが必ずしも正解と言える訳では無いのだ。それでも――
「土方副長。俺が命に従うのは、俺がそうしたいと思ったからです。例えそれが間違いだったとしても、副長一人の責任にはしません」
「斎藤…」
「皆も、同じ気持ちかと」
だからそんな風に、全てを一人で背負う必要はないのだと。自分の気持ちを伝えるように、斎藤は淡く微笑んだ。
土方は戸惑うように視線を彷徨わせた後、何かを言おうとして――背後から聞こえてきた声に、身を固くする。
「まさか、こんな所に新撰組の……」
「……っ!」
土方と斎藤はハッと目を見開き、声の主を凝視する。二人の目前に居たのは、京都守護職の人間だった。
「副長、この者が総司の言っていた速見という男です」
土方の傍で、斎藤が耳打ちする。土方に命じられて先日速見の事を調べていた斎藤は、彼の容姿を良く覚えていた。
土方は神妙な面持ちで頷くと、表情を引き締める。
「あんた、京都守護職の人間だな。こんな所で何をしている」
「それは此方の台詞だと思うが。新撰組の副長殿が、何故ここに?」
土方に問われた速見は険しい表情を浮かべる。ひと目で相手を新撰組の土方だと見破った速見は、面識のない人間を前にしても一歩も引かなかった。
両者の間に沈黙が流れる。
暫くして、先に口を開いたのは速水だった。
「ここで押し問答をしていても仕方がない。副長殿に会えたのなら丁度いい」
「丁度いい?どういう事だ?」
「佐々木殿から託を預かっている。局長殿か副長殿に渡す様に、と言われてな」
「佐々木さんが、俺に?」
怪訝な表情を浮かべる土方を見て、速見は眉を潜める。
「これが頼まれた文だ。後の事は、そちらで話し合えばいいだろう」
速見は投げやりに文を押し付けると、その場から立ち去ろうとする。だがそれを、斎藤の静かな声が制止した。
「待て。あんたは先日、俺に佐々木さんの名を語って話しかけてきた男だろう?清河を殺した、と俺に教えた時の事を覚えているか?」
「……っ!お前、あの時のっ」
「……今頃気付いたのか。あんたが何故自分の事を佐々木と名乗ったのか、教えて貰えないか?理由を教えてくれるのなら、あの時の事は水に流そう」
「それは……」
速見は先程までの不機嫌そうな表情を一変させ、戸惑うように視線を彷徨わせる。その態度に彼が何か後ろめたさを感じていると悟った斎藤は、更に強く追及する。
「言え。何故あのような嘘をついた?」
「…………………」
速見はじっと斎藤を睨む。その瞳には、僅かな嫉妬の色が見えていた。
「………疑いを晴らすためだ」
「疑いだと?」
「そうだ。何の疑いかは言えぬが、俺と佐々木殿は守護職の人間に疑いを持たれている。特に佐々木殿に至っては、酷い尋問を受けている」
速見は言葉を濁したが、斎藤と土方はすぐに察しがついた。疑い、と言うのは清河が羅刹として蘇った事と関係しているのだろう。
「佐々木殿が汚名を着せられたのは貴様らの所為だ。清河の死を教えて煽れば、何らかの行動を起こすだろうと考えた。それが、嘘をついた理由だ」
「………何故、佐々木さんが疑われた原因が俺達にあると思うんだ?」
それまで黙っていた土方が、怪訝な表情で問いかける。佐々木が汚名を着せられるような事など何もしていない――と考えて、過去の出来事が脳裏をよぎる。
「まさか……佐々木さんが清河を討ったのは、総司や平助の為だと?」
「ふん、自惚れるな。確かに無関係とは言い難いが、それだけが理由ではない。佐々木殿が疑われたのは、貴様らを庇ったからだ」
「庇った?」
驚いたように目を見開く土方に向かって、速見は怒りに震える拳を握りしめる。
「そうだ。自分と新撰組は無関係だ、彼らとは何の関わりも無い――と否定して、疑いが全て自分に向くように振る舞っていた。それがかえって不自然に見えたのだろう。だから佐々木殿は、厳しい追及を――」
「ちょっと待て。だからどうして、俺達があの人との関係を疑われるんだ?新撰組と佐々木さんは最初から無関係……」
「何を言っている」
速見は呆れた顔をすると、怒りに震える手で土方を指差した。
「京都に残留していた貴様らの事を容保様に進言したのは、佐々木殿だろう?新撰組が生まれる上で佐々木殿が果たした役割がどれだけ大きいか、忘れたとは言わせないぞ」
「佐々木さんが………容保様に?」
「まさか、知らなかったのか?あの人が容保様との間を取り計らったお陰で、貴様たちはここに居られるのだ。佐々木殿に疑いの目が向けば、関係の深い新撰組にも疑いが及ぶのは当たり前だろう。だがそれを、佐々木殿は否定して……くっ」
速見は佐々木を慕っていた。だからこそ、世話を焼いてやった新選組の所為で佐々木が窮地に陥っている事実を許し難いと考えた。
何も知らずにのうのうと暮らしている新撰組の隊士たちを見る事すら、不快で仕方が無かったのだ。
「佐々木殿は新撰組にまで疑いが及ばぬようにと、自ら進んで一人で居ようとした。それが俺には、どうしても許せなかった。何故、あの方が疑われなければならないのだ。幕府の敵を討った功績を認められるどころか疑われ、汚名を着せられるなど……!」
「だから、平助を尾行して罪を着せようとしたのか?」
それまで沈黙していた斎藤が、意を決して問いかける。速見の言葉を聞いて、平助が何故清河の仲間と疑われたのか、大体の事情を理解する事が出来た。速見は佐々木の身を案じ、独断で平助に罪を着せようとしたのだろう。
流石に言い逃れ出来ないと思ったのか、斎藤に指摘された速見は悔しげに俯く。
「これ以上、俺から言う事は何もない。後は貴様らの好きにすればいい」
文はしかと渡したぞ、と言って、速見は去って行った。
残された土方は手元に視線を移しながら、複雑な表情でそれを見る。
速見の言葉を疑う余地は無い。沖田の言葉やここ数日の佐々木の行動を考えれば、真実は自ずと見えた。
「副長……」
斎藤は土方の心情を察し、気遣うように声を掛ける。土方の見解が間違っていたのは明白だ。自分の下した判断が足元から崩れて、今彼は何を思っているのだろう。
土方は黙って、手元の文に視線を落とす。そこには、誰もが驚くような――実に佐々木らしい言葉が書かれていた。
「共同作戦、か。こんな時によく言い出せたもんだ。あるいは、これも疑いを晴らすための策なのかもしれねえな」
「文には、何と?」
「………」
土方は答えぬまま微笑むと、空を見上げた。
果ての見えぬ空を見つめながら、改めて思う。やはり自分は――あの男が嫌いだ。
速見が平助にした事は許し難いが、佐々木の事を想っての行動だと思うと、どうしても彼を責める気にはなれなかった。結局は彼らも、清河の被害者なのだから。
「……斎藤、俺が何であの人佐々木さんを嫌っているか、解るか?」
「新撰組と守護職という立場の違いや、怪しい動きをしていた事から考えれば、当然では…?」
模範的な解答をする斎藤に、土方は何も答えぬまま苦笑した。



清河を討ち、京の治安を守る。
決意を新たにした平助は佐々木と作戦の打ち合わせをした後、路地に隠れながらずっと地図を眺めていた。日が落ちてから随分時間が経ったので、地図に目を通すのに不自由しないようにと、提灯を持った千鶴が平助の傍らに立っている。
「平助君、どう…?」
「多分大丈夫だと思う。地図と配置は頭に入れたから、あとは焦らなければ……」
「それが一番心配だね」
「………総司」
沖田の邪推な言葉に、平助は顔を顰める。人が努力をしている傍でのんきに寝ていた癖に、口だけは立派だ。
「総司も少しは覚えろよ!折角佐々木さんがお膳立てしてくれたんだぞ!」
「僕の役目は敵を討つ事なんだから、寝て体力回復に努めるのが一番だろ。道案内が平助の役目」
「誰が道案内だ!俺も戦うに決まってるだろ!」
いまいち緊張感に欠ける沖田を見て、平助は堪らず怒鳴った。
佐々木が考えた作戦――それは、予め提灯を持った隊士を道に配置し、敵を誘導するというものだった。
「夜道では、追われる清河は灯りを避けて行動するだろう。そこが狙い目だ。予め提灯を持った隊士を特定の場所に配置して、行き止まりまで逃げるように誘導すればいい」
大切なのは清河を逃がさない事。逃げ道を塞ぎ、その上で戦う事が重要だ――と佐々木は語った。今回の作戦に失敗すれば、共犯の疑いが掛けられている平助は捕らえられて殺されてしまうかもしれない。だから今夜中に決着をつける必要があるのだ。
「佐々木さんが伝令にいってる間に、俺達は清河を追い込む為の道順を確認する……って話だったのに。総司はなんで、そんなに余裕なんだよ」
「だって別に、僕は失敗しても困らないし」
失敗して殺されるかもしれないのは平助だ。自分ではない――と言って、沖田は首を横に振る。何とも薄情な態度に怒りを覚えた平助は、わなわなと拳を震わせる。
「総司、お前――」
「どうやら、来たみたいだよ」
ふあ、と欠伸をしながら、沖田は守護職の屯所のある場所から歩いてくる人間を指差す。4つの提灯の灯りが、自らの存在を訴えているようだった。
「あれが佐々木さんの言っていた、清河さんと繋がってる奴のいる見廻り組か」
「多分ね。囮がまっすぐ清川さんの所に行くとは思えなけど、尾行しようか」
「ああ」
平助は頷くと、背後を振り返る。
「千鶴はここで待っててくれ。必ず戻ってくる」
「うん。……平助君、気を付けてね」
「解ってる。ありがとな、千鶴」
平助は頷くと、沖田と共に歩き出す。千鶴は彼らの背中を見つめながら、二人の無事を祈った。
「今生の別れになるかもしれないのに、良いの?」
千鶴と別れてすぐ、沖田はからかうような声で話し始めた。暗闇で良く解らなかったが、恐らく口元には笑みを浮かべているのだろう。平助はむっとした表情を浮かべる。
「良いのって、何がだよ」
「千鶴ちゃんの事が好きだとか、本当は離れたくないとか。もう少し色気のある台詞の方が、女の子は喜ぶんじゃない?」
「ばっ…!だ、誰がっ!」
頬を朱に染めた平助が慌てて抗議すると、沖田はつまらなそうにため息をついた。
「その様子だと、全く考えてなかったみたいだね。そんなだと、いつまでたっても恋の対象として見て貰えないんじゃない?」
「余計なお世話だ!と言うか、なんで俺が千鶴の事好きだって決めつけてるんだよ!」
「あれ、違うの?」
にやにや、と意地の悪い笑みを浮かべている沖田を見て、平助は口にしようとした言葉を飲み込む。悔しいが、彼女に好意を抱いているのは本当だ。ただし、それが沖田の言うような「恋の対象」として見て貰いたい気持ちに繋がるのかは、今の時点では解らないが。
「今は、そんな事言える立場じゃないだろ。死ぬかもしれないって時に……」
「それはまあ――そうだね」
流石に言い過ぎたと思ったのか、沖田は控えめに頷いた。二人の間に一瞬、気まずい空気が流れる
沈黙を破ったのは、異変に気付いた沖田だった。
「提灯の灯りが減った?」
「えっ」
驚いた平助が前方を確認すると、確かに見回り組の隊士が一人減っていた。隙をついて仲間から離れたのだろうか。だとすると――
「総司っ!」
「解ってる。別の道から追いかけよう」
予め地図を頭に叩き込んであった為、どの道を逃亡に使ったのかすぐに予測する事が出来た。二人は逃げた隊士の後を追いながら、緊張感と高揚感を覚えていく。
「平助、この先の道は?」
「突き当りを右に。暫く進むと行き止まりだから、途中で抜け道を使うと思う」
「裏道って事は、そこで落ち合うつもりかな?」
「可能性は高いと思う」
平助は頷きながら、いつでも抜刀できるように身構える。途中で清河と鉢合わせするかもしれない以上、気を引き締めなければならないだろう。
平助と沖田は最初から提灯を持ってきていない。光に頼っていると斬り合いになった時に不利になってしまうため、最初からある程度目を慣らしておかなければいけないからだ。
しかし――
「なあ、羅刹ってさ。夜でも全然視界が狭まらないよな」
「そうだね」
「清河さんってさ、羅刹だよな」
「十中八九そうだろうね。じゃなきゃ、今も生きている事の説明がつかない」
平助は一つ一つ、確認するように問いかけていく。それに答える沖田の表情から、段々と笑みが消えていく。二人は清河が生きていたと聞いた時から、ある事態を危惧していた。今までそれを口にしなかったのは、千鶴の父と芹沢に関する複雑な思いがあったからだが――
「なあ総司。今更だけどさ……」
平助は息を飲みながら、恐る恐る口にした。
「羅刹が、清河さんだけだと思うか?」
平助の問いに、沖田は冷笑しながら「いいや」と答えた。



路地を曲がったあと暫く走ると、二人は道端で倒れている男を見つける。慌てて傍に駆け寄ったが、男は既に事切れているようで、背中に斬られた跡があった。
「総司、これって……」
「提灯の灯りが残っていて良かったね。まさか僕たちに追いつかれる前に命を落とすなんて、意外だったけど」
沖田は舌打ちしながら、男が身に纏っている隊服に視線を落とす。死んでいたのは、清河と合流するだろうと目星をつけていた隊士だった。
「清河さんに斬られたって事なのか?」
「多分そうだろうけど、この死体やけに傷口が広いね。血を抜き取られたみたいな…」
「真顔で怖い事言うなよ」
平助が青ざめるのを無視して、沖田は死体を観察する。物取りにあった形跡は見られないが、清河は此方の思惑に気付いて彼を殺したのだろうか。
「そう言えば、羅刹って理性がなくなってるものだよね。特に夜は……」
――と、そこまで口にした所で、ある事に気付く。これは使えるかもしれない。
「平助。良い事考えたんだけど、ちょっと耳貸してくれる?」
「え?」
にっこりと微笑む沖田の目が笑っていない事に気付いた平助は、びくっと肩を震わせた。



血だ。血が欲しい。人の血だ。人の血が飲みたい。
夜になると襲ってくる吸血衝動に、全身の血が沸騰しそうになる。
「血だ……もっと、血を寄越せ」
清河は深夜の京を徘徊しながら、先ほど捨て置いた死体から抜き取った僅かな血を、口元に運ぶ。先程はつい衝動的に殺してしまったが、あんな人目の付く場所で斬ったのは失敗だった。
「くそっ……!俺がこんな不完全な体になったのは、全てあの男の所為だ!」
清河は拳を握りしめながら、自分を殺した男の姿を脳裏に思い浮かべる。
佐々木只三郎。
あの夜、いつものように気軽に話しかけてきたあの男をもっと警戒していれば、こんな事にはならなかっただろう。
なぜあの時、一瞬とは言え佐々木に心を許したのだろうか。
「殺してやる殺してやる殺してやる殺してやる…!」
清河は狂ったように叫ぶ。
そこには、血に飢えた一人の殺人鬼がいた。
羅刹として蘇った清河が京まで来たのは、全て佐々木への復讐の為だった。失われそうになる自我を必死に保っていられたのも、佐々木への復讐心のお陰だ。
だがそれも、そろそろ限界にきていた。
「佐々木を殺したければ協力しろと言って毎晩俺に暗殺を命じてきたくせに、いつまでも渋りおって……!」
清河はたった今斬り殺した相手に向かって、毒を吐く。
羅刹として蘇った清河は、佐々木への復讐を報酬に幕府方の要人の暗殺を引き受けた。人殺しを命じてきたのは、他でもない幕府だ。
幕府の中にも、使える人間と使えない人間が居る。高い地位に居ながら幕府の政策に従わない人間。隙あらばと、裏切りを企てる者。そういった者たちは、幕府にとって邪魔でしかないのだ。
それを秘密裏に処分する事を企て、彼らは本来であれば死んでいる筈の清河に目を付けた。
清河は幕府の人間に刃を向ける事に躊躇いが無い。それどころか、嬉々としてやるだろう――と考えた一部の幕臣たちは、佐々木の身柄を取引に清河を暗殺の道具にしたのだ。
最初の内は素直に命令を聞いていた清河も、理性が失われていくにつれて自身に残された時間が少ない事を悟り、段々と焦り始めていた。
「何処に居る…佐々木只三郎……貴様を殺さなければ、俺は……」
怨念を吐きながら虚ろな目を彷徨わせていると、鼻先を血の臭いが掠めた。
「……血の臭い?何処からだ?」
清河は怪訝な表情を浮かべながら、血の臭いを辿る。殺しの匂いのする所には、見回り組がいる可能性が高い。そこに行けば、佐々木に会えるかもしれない。
「殺す…殺す……」
手にした刀をぎゅっと握りしめながら、清河は憎々しげに目を細めた。



「なあ総司、本当にこれで大丈夫なのか?」
「多分」
「…………」
平助は眉間に皺を寄せながら、自分の身体を見下ろす。
『着物に血を付けてみるのはどうかな。相手の油断を誘えるし、匂いで誘き出せるかも』と言われ、問答無用で着物に血を塗られた。あれは死体を暴くどころか、死者への冒涜とも呼べる行為だったと思う。
平助は、沖田に常識が通じない事を改めて認識していた。
「いきなり斬りかかってくるかもしれないから、平助は気を付けて歩いて」
「って言うか、そんなに言うなら総司がやれば良かったじゃねえか!」
「やだよ。血みどろな着物なんて着たくない」
「俺だって嫌だったよ!」
歩きながら口論していると、誰かの殺気を感じた沖田が立ち止まって身構えた。
「平助、誰か来るっ!」
「……っ!」
慌てて飛び退いた平助の目前を、刀身が横切る。誰かが斬りかかってきたのだ、と気付いた時には、沖田に腕を引かれていた。
「下がれ平助っ!」
「総司っ!」
沖田は抜き打ちに抜刀し、素早く相手の太刀を受け止める。
凄まじい力によろけそうになるが、前足に重心を預け、なんとか踏みとどまった。
「ほう、受け止めたか」
「あんたは……あの時の……」
燃える様な赤い瞳は、彼が羅刹である事を表している。記憶に残る残忍な笑みを思い出し、沖田の瞳に怒りが宿る。
間違いない。
この男だ。
ついに見つけた。
沖田の背後で、平助が目を見開きながら名前を口にした。
「清河八郎………」
数か月ぶりの再会は、突然の襲撃から始まった。



平助と沖田が清河との邂逅を果たしていた頃、佐々木只三郎もまた――敵と相対していた。
「随分と上手くやってくれたお陰で、動くのに時間がかかってしまったよ」
そう言って、彼は虫の息になっている男を見下ろす。平助達に清河と繋がっている間者を追わせながら、彼は彼で残った敵の始末をつけていた。
「何故俺が……敵だと気付いた…」
「単純な理由だ。君は俺を監視していた人間の中で最も強かった。そして、ここ(守護職)に馴染もうとしなかった。どうせ借宿のようなものだと思っていたのだろう?」
「………くそっ」
男は表情を歪める。幕府に命じられて佐々木の動向を監視し、必要とあらば上に報告する。
命じられたのはそれだけだった。だから、自分が戦う事になる可能性は少ないと思っていたのだ。
「訊かないのか……幕府が何故、自分を狙ったのか……」
「質問すれば本当の事を答えるのか?」
わざわざ尋問などしなくとも、佐々木には大体の事情が解っていた。解っているからこそ、問い詰めるべきではないと判断したのだ。
「大方の予想はついている。俺が会津の人間だから邪険にしようとしたのだろう?容保様は守護職に就任する事を渋っていたからな」
会津藩主である容保は当初、幕府からの就任要請を何度も断っていた。しかし家訓を引き合いに出され、やむを得ず要請を承諾するしかなかったのだ。
既に浦賀、蝦夷地の警備にあたっている会津の財政は窮乏状態にあり、京都の警備にまで赴くことになれば、会津は滅ぶ可能性もあった。
しかしそんな事情は、幕府にとってはどうでも良かったのだろう。
将軍の要請を渋った容保の事を、陰で悪く言う人間が多い事は知っている。今回の騒動にも、その辺の事情が絡んでいる事は解っていた。
「清河の偽者を用意してまで俺を始末しようとした理由は解らないが、容保様ではなく俺を狙ってくれたのは有難い。お陰で、こうして楽に始末をつけられた」
羅刹の秘密を知らない佐々木は、今回の騒動が一部の幕臣と清河の偽者によるものだと結論付けていた。彼にとって幸いだったのは、共に清河を討った速見が内部調査に協力してくれた事と、平助の事件がきっかけで新撰組の助力を得られた事だった。
「これでようやく安眠できる。君も、安らかに眠ると良い」
そう言って佐々木は男にとどめを刺すと、傍らに控える男に視線を移す。
「速見君。この死体は清河の偽者の仕業、という事でいいな?」
「新撰組の連中が清河の死体を確保できれば、という条件付きですが。今夜中に始末できなければ、あの藤堂と言う男の所為にした方が良いかと」
「それは困るな。では、俺は彼らの武運を祈るとしよう」
佐々木は苦笑すると、速見に死体の処理を任せて何処かへ行こうとする。
「佐々木殿、何処へ?」
「少し気になる事があってな。無茶をするつもりは無い、心配するな」
「しかし――」
「それより、例の文は土方さんに届けてくれたか?」
「は、はい。言われた通り、渡してきました」
速見の言葉を聞いた佐々木は、満足げに頷く。ならば、これから面白い余興が見られそうだ。
「速見君、済まないが後は頼む」
「わ、解りました。……ああ、所で」
「?」
佐々木を引き留めた速見は、気まずそうな表情で尋ねた。
「佐々木殿は何故、守護職御預り(非正規雇用)の新撰組に目を掛けるのですか?彼らは我々の支配下に置かれている立場の人間ですよ」
佐々木が「近藤さん」「土方さん」と敬うような呼び方をするのを、速見は常々疑問に思っていた。ろくに会話もした事のない人間を何故、親しげに呼ぶ必要があるのだろう。
速見が複雑そうな顔をしているのを見て、佐々木は苦笑した。特に理由などないと告げたら、彼は何と言うだろう。
「土方さんが近藤さんよりも年上で、俺が近藤さんよりも年下だから……と言ったら、君は信じるか?」
「え――」
佐々木が冗談っぽく告げた言葉に、速見は案の定絶句した。



佐々木が武運を祈る平助と沖田の戦いは、気付けば長期戦となっていた。
予想外の劣勢を強いられていたのは、平助と沖田の方だった。
「くそっ!何であんなに逃げ足が速いんだよ!」
「総司落ち着けって!焦ってたら勝てるもんも勝てないだろ!」
「解ってるよ!」
沖田と平助は先程から、清河を追って走り回っていた。羅刹の身体能力の高さは理解していたが、こんなに逃げ足が速いとは思っても見なかったのだ。
「そう言えば芹沢さんが居た頃に始末した羅刹も、逃げ足早かったよな……」
「だからって……くそっ!」
沖田は逃がすまいと追いかけながら、一方で苛立ちに呑まれそうになっていた。清河は逃げては応戦する――と繰り返し、段々と二人の体力を消耗させていく戦法を取っていた。
「佐々木さんの読みは正解だったな。提灯を持った隊士がそこら中にいるお陰で、上手く清河を誘導できてる」
「って事は、もうすぐ行き止まりって事?」
「いや、この道順だともうしばらく先……」
「そんなに待てるかっ!」
沖田は荒い呼吸を繰り返しながら、隣を走る平助に文句を言う。どちらかと言えば体力が無い方の沖田は、既に限界が近づいていた。
「ううう……僕は新八さんと違って、こういう体力勝負は苦手なのに」
「もうちょっと頑張れよ総司。向こうも疲れてる筈だから……多分」
羅刹の体力は底なしかもしれないので、一応語尾に「多分」と付け加えておく。
先行する清河の足はどんどん速くなるばかりだ。もうすぐ後姿も見えなくなりそうだった。
「せめて応援を呼べれば、挟み撃ちに出来るのに……」
平助が口惜しげに呟くと同時に、いつの間にか道端に人が増えていることに気付く。佐々木と確認した時には、此処に人を配置するとは言われていなかった筈だが。
「何で増えてるんだ?いったい――」
「平助!平助じゃねえかっ!」
「その声は……左之さん?」
聞き慣れた声に振り向くと、視線の先に居たのは原田だった。平助の無事な姿を見て安堵したのか、原田はホッとした表情を浮かべると、二人に駆け寄った。
「心配したぞ平助。……総司も一緒か」
「どうしてここに……」
「話は後だ、皆も来てるぜ」
そう言って、原田は沖田と平助の背後を指差す。
えっ――と驚いた二人が振り返ると同時に、近藤の勇ましい声が辺りを支配した。
「止まれっ!新撰組の近藤だ。大人しくしてもらおうか、清河八郎っ!」
「なにっ!」
近藤の声に驚いた清河は立ち止まると、前方に新撰組の隊服を着た男たちが立っている事に気付く。
「貴様ら…何故ここに…」
舌打ちする清河を見て、近藤の傍らに立つ永倉が勝ち誇ったような笑みを浮かべた。
「へっ、俺たちを誰だと思ってやがる!仲間の危機に駆けつけるのは当然だ。平助を罠に陥れようとした罪、しっかり償ってもらうぜ!」
堂々と宣言する永倉。その背後に控えていた山崎は、簡単に言ってのける永倉の言葉を聞いて、頬を引きつらせていた。――と言うのも、町中を必死に走り回って情報収集をし、土方と連絡を取り合って近藤達を連れてきたのは、山崎だったからだ。
「お二人とも。羅刹の身体能力は想像以上です。気を引き締めて下さい」
「解っているよ山崎君。君は後方に下がっていると良い」
「はい」
近藤の言葉に従い、山崎はいつでも援護できる場所に待機する。
完全に逃げ道を塞がれた清河は、じりじりと後退していく。
「何故だ……くそっ!佐々木は何処だ!出てこい佐々木只三郎!俺は貴様を斬る為に蘇ったのだ!出てきて俺と勝負しろ!」
唸るような叫び声を上げると、清河は刀に手を掛けようとする。それを見た近藤は、咄嗟に叫んだ。
「総司っ!」
「………!」
近藤の言葉に導かれるように、沖田は素早く抜刀すると、清河の背後から斬りかかる。
「はあああっ」
「調子に乗るなあっ!」
激情に駆られた清河は沖田の刀を弾き、真横から連続して斬りかかっていく。だが本来なら避けるべき刀を、沖田は不慣れな体制から受け止めた。
「馬鹿め!その体制で俺の刀が受けきれると思って…」
嘲笑うような笑みを浮かべた清河は、直後、沖田が口元に笑みを浮かべている事に気付く。
どういうことだ?と眉間に皺を寄せた瞬間、清河の刀を受け止めていた沖田が後方に飛び退いた。
「今だ!平助っ!」
「くっ!」
沖田の思惑を理解した清河が飛び退こうとした瞬間、平助の突き技が、清河の心臓を貫く。
それは暗闇で互いの姿さえ確認できぬ状況だと言うのに、恐ろしいほど正確に相手の心臓を捉えた、見事な一撃だった。
「やった、のか……?」
崩れ去る清河の身体と確かな手応えに、平助は驚いたように目を見開く。
辺りが静寂に包まれる中、沈黙を破ったのは意外な男の言葉だった。
「見事だ、藤堂君」
「……佐々木さん」
「この暗闇の中、よく急所を狙えたな。素晴らしい一撃だった」
佐々木は手放しに平助を称賛すると、傍に立つ近藤に視線を向ける。
「近藤さんも、見事な一喝でした」
何故佐々木がここに?と唖然としている皆を無視して、彼はいつもの調子で話す。
「暗がりで態々名乗るのは敵に自分の位置を教えるのにも等しい自殺行為。しかし、皆を奮い立たせたのは紛れもない貴方の一言だった」
「い、いや…つい感情のままに叫んだだけです。お恥ずかしい所を見せてしまった」
「良いと思いますよ、実に近藤さんらしい。……容保様にも、進言した甲斐があった」
「え?」
「何でもありません」
佐々木は微笑すると、それ以上は何も言わなかった。
暗闇の中で名乗る事は自殺行為。それは、この時代の剣客なら誰もが知っている事だった。
その常識を覆した近藤の一言は、のちの池田屋事件――御用改めの宣言をしてから討ち入る、という歴史的にも珍しい一件に繋がる事になるのだが、この時の近藤には知る由も無かった。

「藤堂君。君の潔白については速見に言っておいた。今回の一件で君が守護職の人間に追及されることは、もう無いだろう」
「って事は、佐々木さんが誤解を解いて…?」
「元はと言えばこちらの落ち度だ。君には済まない事をしたね」
佐々木は申し訳なさそうに謝罪すると、踵を返す。
ここから先は、平助と新撰組の問題だ。いつまでも自分がこの場に留まっていては、彼らの話に水を差してしまうだろう。
「では、俺はこれで」
清河の死を確認して満足した佐々木は、あっさりとその場を立ち去った。平助や近藤は彼を引き留めるべきか一瞬迷ったが、掛ける言葉が見つからず――結局、そのまま彼を見送った。



「佐々木さん」
「……土方さん?」
近藤達と別れ、守護職の宿舎に向かって歩いていた佐々木は、前方に立ち塞がる土方を見て驚いたように目を見開く。
土方の傍らには、斎藤が立っていた。
「どうかしたんですか、こんな夜更けに」
「確かめたい事があってな。あんたが会津の容保様に、京に残っていた俺たちの存在を伝えたと言うのは本当か?」
「さあ、身に覚えありませんが」
「誤魔化すな。あんたの側近からすべて聞いた。何故黙っていた?」
「……ご想像にお任せします」
佐々木は苦笑すると、土方の横を通り過ぎようとする。無防備な姿を晒されて、毒気の抜かれた土方と斎藤は複雑そうに眉を潜めた。
去り際、佐々木は思い出したように呟く。
「土方さん、今回は利害が一致してましたが、次も同じとは限りません。もし争う事になったら、手加減なしでお願いします」
手加減はなしで――という言葉には、自分に遠慮する必要は無い、という佐々木の真摯な思いが込められていた。
「……ああ、解ってるさ。手加減なんて誰がするか」
「土方さんなら、そう言ってくれると思ってました」
佐々木はどこか嬉しそうな声で頷くと、肩を竦めながらゆっくりとした足取りで立ち去った。
後に残された土方は、その背中を見て目を細める。
敵の癖に、正々堂々としている。
正々堂々としているくせに、必要とあれば己の手を汚すことを厭わない。
――本当に、油断のならない男だ。
「ったく、食えない人だな。だから俺はあの人が嫌いなんだよ」
「副長?」
首を傾げる斎藤を見て、土方は先程答えずに誤魔化した己の本心を打ち明ける。
「近藤さんが好きなんだよ、ああいう人。総司にもいつのまにか好かれてやがる」
近藤は佐々木のような頭が良く、強い人間を好む。沖田の場合は、佐々木の意外としたたかな所が気に入っているのだろう。
「だから俺は、あの人が嫌いだ」
子供のような拗ねた顔を見て、斎藤は呆気にとられた顔をしたあと――やれやれと肩を竦めながら、口元に笑みを浮かべた。















佐々木只三郎
京都見回り組の組頭で、実質的には彼が守護職を指揮していたという説も多い。京都守護職の中でも随一の実力を有する彼はのちに、坂本龍馬を暗殺し、新撰組の原田左之助に罪をなすりつけた張本人では――と囁かれるようになる。
歴史的にも彼を犯人と見る動きは強いが、そんな佐々木が新撰組結成に関わり、近藤らと密かに親交を持っていた事は、実は意外と知られていない。











05/17. 14:02 [ 無分類 ] . . TOP ▲
  
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